手根管症候群  解剖 原因 病態 治療

横手根靭帯と掌側手根靭帯

最初に、横手根靭帯と掌側手根靭帯について知っておきたい。

横手根靭帯も、掌側手根靭帯も、ともに屈筋支帯と書かれているが、両者は構造
が異なり、前者は深層にあり手根骨を結合する。後者は浅層にある。( Fasciaリ
リ-スの基本と臨床、P127, 2017)

掌側手根靭帯部(屈筋支帯)では、橈骨動静脈、正中神経、尺骨神経は掌側手根
靭帯の下の皮下の浅い部位に並び、その下に、指屈筋群が位置する(メイヨーク
リニック 超音波ガイド下神経ブロックの手引き p278、2011。 Fasciaリリ-
スの基本と臨床、P127,2017)。

手根管(横手根靭帯)部では、正中神経は靭帯の深層、橈骨動脈は靭帯の浅層を
走行する。

手根管症候群の原因

神経腫は、横手根靭帯の近位にできる。腫瘍や関節リウマチでない、手根管症候群では、従来、横手根靭帯の神経圧迫が原因、と考えていたが、最近は、そうではないように思う。

Tinel’s signや圧痛が、横手根靭帯部でなく、その近位、そしてその遠位、母指球にあるからだ。

病変が、横手根靭帯部の近位で起こるとすると、手根管症候群の原因は、横手根靭帯の近位縁と、神経の衝突、手関節掌屈時に起こる、が原因ではないかと推定している。

そこで神経炎が起こり、遠位へ神経炎が波及し、横手根靭帯下、つまり手根管内での神経炎、腱鞘炎に発展していくのではないかと推定している。

そして、手根管内で腱鞘炎のため、神経は圧迫され、細くなる。

手術の時、手根管を切開すると、細くなった神経を見るが、手根靭帯が神経を圧迫していると私も思っていた。おそらく事実は腫大した屈筋腱が神経を圧迫していたと今は考えている。

仮性神経腫

次に、神経には軸索流があるので、手根管の近位と遠位で軸索流の滞留により、神経の腫大が起こる。これが仮性神経腫である。

手根管症候群での圧痛あるいはTinel徴候は、手根管そのものではなく、その近位が通常最強である。次に、手根管の遠位側、母指球近位に強い。このことは、上記の推定を裏付けていると思う。

腫大部では、シュワン細胞からNGFが多く産生され炎症が起こると推定している。

そして、線維化と循環障害を起こす。

手根管症候群の予防と治療

従って、治療と予防の主眼は、手関節を曲げ続けないこと、手関節を動かさず、中間位で固定して使うことであり、手関節を固定するサポータや装具は有効な治療手段である。

手根管内での神経炎、腱鞘炎となった段階では、従来は神経ブロックとして扱われてきた手根管内へのステロイド注射も、腱鞘内注射としての意味もあり、有効である。

腱鞘炎であれば、内服のNSAID、漢方のよく苡仁湯も有効である。神経炎への漢方としては牛車腎気丸。

リハビリテーションでは、超音波気泡浴、超音波、パラフィンなどが勧められる。

母指球の萎縮が認められる場合でも、筋力強化型電気刺激を続けることで、回復する場合もある。

圧痛部位において、ステロイドを使わなくても、生食5倍希釈のキシロカインによる神経周囲のエコー下ファシアリリースも有効である。圧痛に応じて、手根管の近位と、遠位側でリリースする必要がある。

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